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シングルハンドの功罪

三河丸船頭 芝 豊造

無職になり暇が出来たので、どっかへ行こうかなと思っていた折、火山島めぐり ヨットレースに行かないかと、水野会長から誘いがあった。
OKと答えたのが災難の始まりであった。
シングルハンドの長期クルージングは25年ぶりである。その上、酒毒で脳みそが半分腐っている。老化で身体はボロボロだ。出発の日からして、もう無茶苦茶になった。前夜に呑み過ぎて、目を覚ましたらフライングは陰も形も無い。ボヘミアンのナベ船頭がいたので聞いたら、30分前に出て行ったと言う。俺を置いていきやがった。宮崎でこの憂さを晴らすことになる。九州以外から参加する艇には、一律10万円の回航補助金が支給されたのだが、フライングは申し込み締切日に間に合わず一銭ももらえなかった。どうやら連絡の行き違いがあったようだ。水野会長は頭から火を吹いている。俺は後ろを向いて、ザマアミロ---ひひひ***と笑った。俺の性格も相当悪い。笑った罰が直ぐに来た。エンジントラブルで無風。種子島から宮崎沖まで一晩漂流させられた。“人を笑えば、明日はわが身”とはよく言ったものだ。

珍道中の末、一応無事に帰っては来たが、色々考えさせられることの多い旅行であった。

功罪の功のほうで言えば、何でも一人でやるしかないから、精神的に強くなることは事実だろう。しかし、罪のほうは百倍にものぼる。一人っきりだと社会ルールが適用されないから、やりたい放題だ。自分の意見が100%通る。娑婆へ戻っても、この癖はなかなか抜けない。人付き合いが悪く、チームプレーが苦手。わがまま、頑固、自分勝手、いいとこ無しだ。シングルハンドに一つの結論が出た。若い人にはお勧めできない。くたばったほうが喜ばれる年齢になってからやるべきだ。だけどさあー。しぶといんだよなあ、じじいは-----!