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FLYING航海記5

船頭 水野範彦

7月3日 曇雨 KMSと連絡がつかないので、一番奥の内港の泉丸に舫わせてもらう。ここで何日過ごすことになるかな? 鹿児島から今井さんが見舞いにきてくださる。雨が降って鬱陶しいので、厨食堂へ行くのを諦めて、久しぶりに熱燗をつけて夕食。
7月4日 曇 台風は北上を続けている。避難した船は1隻も出て行かない。屋久島からフエリーも避難してきている。感じでは大したことなく過ぎそうだが、用心のため今夜は民宿に泊まることにする。15年前位前に油津で台風に遭ったとき、船内にいて『船は沈んでも仕方ない、命あっての物種だ!陸に上がりたい・・・』と思って以来、台風は陸で過ごすことにしている。4年前、指宿で台風に遭って、一晩ホテルで過ごし、『flying』は無事だったが、地元漁船が4隻も沈み、見ていても何も出来なかったという話を聞いて、これが正解だと痛感したこともある。やはり『flying』は柔なのかな!昼に鹿児島市観光課の賀籠六さんが今井さんと見えて差し入れと厨食堂の鰹タタキ定食をご馳走になる。『ボヘミアン』からTelがあり快調に走って、予定以上に船足を延ばしているようだ。トリマランで、シングルとあって繋留するには条件が厳しいので、知ってる限りのアドバイスをするが、条件が『flying』が入ったときと変わっていないかが心配だ。午後泉丸の船頭が来て、『アンカーを入れたほうが良い』と言うて手伝ってくださる。何かあったら電話せよとのことで、家の電話番号まで教えていただく。近くの漁師は発泡スチロールの俵を貸してくれる。有難いことだ,
感謝あるのみ。夕方民宿へ行く。
7月5日 雨 大雨洪水警報が出ている。民宿イカエギ荘から『flying』が篠つく雨の向こうに見える。ゆっくり船に帰ると漁師が民宿は良かったかと聞く。からかわれているのかな?漁師も私も、退屈をもてあましている。 台風は西のほうを通り、雨だけ沢山残していった。
7月6日 雨 台風の影響は去ったみたいだが、漁船は尻を上げる気配はない。次の6号が去るまで居座るようだ。作業船も出る気配はない。僅かに保安庁とフエリーが出かけただけだ。彼らは指定された立派なポンツンがあるから安心だが、他の船は今の良い場所を確保しておくつもりのようだ。午後晴れ間を利用して泉丸の船頭のお手伝いを得て、アンカーを上げ、指宿へ移動する。ヨット専用ポンツンがあり、地元漁船が占領していたが、『flying』が入っていくと、どこで見ていたのか漁船をどけてくれたので、厚く御礼を言う。この前台風の時に地元游漁船が沢山いたところがすっかり空なので不思議に思ったが、漁船の修理をして、ヨットの面倒を見てくださる片野田さんを訪ねたら、6号の情報と、この前台風で沈んだ教訓で全部陸揚げしたそうだ。1年ぶりにコーラルビーチホテルの風呂へ行き、『安上利』で夕食。
7月7日 曇 台風6号が気になるが、KMSへ上架するように頼んだったが、台風避難と火山島ヨットレースの準備のため船台が満員で上架できないとの断りのTelがくる。谷山に繋留するところもないそうだ。あくせくしても仕方ないので温泉に行きのんびり過ごす。春田君から休暇が取れたので、乗せてほしいとの連絡が来たが、台風の状況を伝へて断る。
7月8日 曇雨 朝早くから漁船が台風避難の準備をしている。TVの天気予報を見ると九州直撃のようだ。諦めてここに居座って台風を過ごそうとアンカーの準備をしていると、片野田さんがインターネットの台風予想図を持って、『ここにいたら駄目だ。谷山で泊地を探せ。今井さんに連絡をするから』とのお話にすぐ出港。ジブが台風対策で仕舞ってあるので、1ポンのメイン1枚でアビームの風を受けて6KTの快走、なぜかいつも良い風をもらっている。谷山で今井さんに会い、あいてる繋留場所に仮繋留をしたら、KMSの社長から『場所が空いたから、すぐ来い』とのTel。偶然仮繋留した場所で、承諾を得て一安心、片付けと台風対策をする。ここは幅100m位の水路で、両側にヨット游漁船が係留していて、台風時には反対側の岸から舫ロープを取るので絶対安心だ。(絶対はないか?) 但し乗降は発泡スチロールの板にベニヤをくくりつけたのを陸から舫を取って行き来するので、酔って落ちたら一巻の終わりになるので、夜はあり合わせのおかずと、ビール、焼酎で済ます。
7月9日 雨曇 昨晩は雨で蒸暑く熱帯夜で睡眠不足、バッテリーが充電しないかと思っていたら、配線不良で電圧ドロップして冷蔵庫の動きが悪かったので、近くのホームセンターで部品を買い、配線の取替えにかかる。船内は38度以上に気温が上がり、湿度も高いので頭と体が十分に働かない。(何時も悪いか?)何とか満足するようになってシャワーを浴び、夕食に出かけるも、ラーメンとか、うどんとか、フライドチキンの店しかない。ダイエーが見えたのでビールと夕食のおかずを買って,海へ落ちないように帰り夕食、台風は九州の東へ離れていったようで大安心。
7月10日 晴 朝起きると珍しく桜島が噴火している。20年位前になるか、鹿児島の街路が黒い灰に覆われていて、桜島の火山灰だと聞いたことがある。これで4日熱帯夜が続き、暑さと睡眠不足にグロッキー、年金生活者でお金が無いけど、死んでは年金がもらえなくなるので、(死んだほうが国の為だとの外野の声が聞こえる)賀籠六さんにTelしてSOS、温泉つき1泊3,500円のホテルを紹介してもらう。立派なもので、食堂もホテル内にあり安くて美味しい。KMSで上架して舟艇掃除が終わるまで居座ることとする。三河丸が昨日碧南を出港し、鳥羽で1泊今日勝浦へ向かうとの情報があり、まともに台風へ向かうみたい、『嵐に向かう男』に敬服する。どだい『flying』と根性が違うよ。こちらは『嵐から逃げる男』だよ。
7月11日 晴 台風が東海、関東で猛威をふるい、珍しく北海道へ上陸するようだ。ボヘミアンは順調に航程を伸ばしているようだが、こちらはホテルで静養中。
7月12日 晴 台風7号、8号共に朝鮮半島へ向かうようだ。今日もKMSから上架の連絡がこない。レース会場に仮ポンツンが出来るまではここにいるより仕方ないか!それともボヘミアンのお手伝いをするか!
7月13日 曇 朝ボヘミアンよりTelあり、細島を出て山川港へ向かうも真上りで、なんともならないので、宮崎ヨットハーバーへ入るとのこと、正解と思う。クルージングは楽しくなければいけない。インターネットの台風情報を見ると16日には鹿児島へ接近するようだ。当分ボヘミアンは宮崎に、flyingは鹿児島に缶詰か?
7月14日 晴 『さち』のオーナーより(『flying』の対岸よりの舫ロープとったので、風が強くなったらこれを締めるように)とのTelあり感謝感激、ついでに乗ったことの無い高級車を貸してくださる。帰るときにTelすれば取りに来るとのこと、こんなご好意に甘えてよいか?甘えることにする。『三河丸』が悪天候の中8時間もかからないところを18時間かけて足摺岬につき、漁船の間に舫ったとのこと、『嵐に向かう男』のど根性に敬服する。台風が過ぎるまで出ないとのこと、『台風に向かう男』にならないようだ。楽しくクルージングしてください。台風が間違いなく九州を直撃するようなので、夕方舫いを締めに行く。名古屋と違い同じ台風でも勢力が強いので、皆さん台風対策をここまでしなければいけないか?と思うほどしっかり怠りない。
7月15日 曇雨 朝から台風情報を繰り返し放送している。夕方に鹿児島へ上陸するかな?桜島の陰になる海面に大型船舶が避泊している。直撃間違いないようだ。朝 ヨットへ行くと又皆さんが来ている。昼飯を食べに魚市場に行くと山川で一緒だった漁船が避泊していて、今月は2回しか漁が出来なかったとぼやいていた。台風9号が出来たようだというとガックリしていた。次の台風を避泊すところと、レースの会場を設営している所を見て、今日までいたホテルは休みの為、櫻島温泉ホテルへ入る。午後の予報では台風の中心は鹿児島の南をとおるようで、5号並みの影響ぐらいで、ここは安心できるかな?今日宮崎へ『ボヘミアン』をたずねようかと思ったが、明日にする。
7月16日 曇 台風はスピードを上げ小さくなって、今朝は紀伊半島にいる。ヨットに行き台風養生を仕舞い、どうしようかな?と考えてみると、もう2週間も台風から逃げ回っているだけで、全然楽しくない。ホテル住まいで、お金がどんどん出て行く。しかし温泉は12分味はった。午後上架し、船底を洗う。どうも走りが可笑しいと思っていたら、プロペラにロープが巻きついていた。終わって臨時ハーバーに向かい6時着、繋留を終え、会場のシャワーでなく風呂に入る。だんだん設備が良くなる。1年ぶりにホット亭で夕食。今日からヨットの生活に戻る。
7月17日 雨曇 南の風が8m位吹いている。海上波浪注意報が出ている。ボヘミアンより真向かいの波ウネリが残っていて、内の浦へ入るとのTelあり、楽しくない『苦労人愚』(クルージングと読む)をしてみえる。何とか楽しいクルージングになってほしいものだ。半日かけて2ヶ月のハルの垢を落とす。黄ばんでいるのは鉄錆で、何故ハルに鉄錆がつくか判らないが、(海水中の鉄分がつくとの噂もあり)山川漁協で買った[FRP船の鉄錆落し]はすごい効力がある。[ブラシにつけてこする]と書いてあったので、歯ブラシにつけて作業をしていたら、終わり頃に今井さんがきて、『トイレ掃除のブラシを使えば』と言われて、自分の阿保さ加減がわかった。まだデッキなどが残っているので早速買おう。夕刻 森さんが見えて錦江湾内[港温泉めぐり]の情報を戴く。錦江湾内の港の殆んどが温泉付きのようだ。三島カップまでの間楽しみたいものだ。[台風よ来るな!]
7月18日 雨 起きたら南の風、雨が降っている。ボヘミアンは佐田岬まで『苦労人愚』を強いられるかな?今日中に着きたいとなると仕方ないか。三河丸とは連絡がとれない。遅れても行くからエントリーしておいて、との連絡があったので、ど根性を発揮して今ごろ走って見えるかも?flyingは今日は温泉(鹿児島しの銭湯はすべて温泉で、泉質がすべて異なり、その数100近いと聞く)めぐりかな?ボヘミアンがなんと予想より4時間も早く臨時ハーバーへ『ミズスマシ』のような姿を見せた。居合わせた鹿児島のヨットマンのお手伝いで舫い完了、櫻島温泉ホテルで入浴洗濯をして、湯豆腐を食べに行く。内之浦にも立派な温泉センターが出来たそうだ。帰りの航海が楽しみになる。最近は後悔が少ない。(後悔するほど航海はしていないか?)