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FLYING航海記7

船頭 水野範彦

8月4日 晴 おにぎりを貰い朝6時半出港,今日は63Mの内之浦港行き 上り一杯で走るうち後ろへ風が回り7,5ktオーバーになりジブを巻きメインだけで6,5kt近く出るのでオーパイでは間に合わない。舵を握り4時間、草臥れきって5時内之浦へ,暫く何もする気がしない。シャワーを浴び近くの飯屋へ,ビールと軽く食べて帰る。
8月5日 晴 昨日昼中風が上がったので,今日は1ポンリーフ,ソヨソヨの風の中都井岬へ、徳島からヨットが帰るとき都井岬で凄い逆潮で、苦労したとの話を聞いていたので,下げ潮のうちにと機帆走,しかし今日は1日1~2kt連れ潮を貰って、しかも昨日に負けない風も貰って1ポンでも6,5ktを越えるときもあり、53Mを7時間でサンマリーナ宮崎へ,Telを入れておいたら出迎えを戴き,繋留のお手伝いまでしていただく。しかし水,電気までお金がいるのはチト感心しないね!他のハーバーはどこも無料なのに。夜 永井サンが見えて買い物をしていただき,ヨットの中で2人だけの宴会、話がなずむ。
8月6日 晴 今日も1ポンのままで南の風をもらってよく走る。岸から1~2Mの所を連れ潮を貰って細島へ12時半着,昼食後舵がきしむ音がするのでファーストマリンへ電話しチェツクをするが,これが大失敗,コンパスを外して舵柱?の中をチェツクせいと言われたが,コンパスをはずしても中は見れず、おまけにコンパスライトの線を切ってしまった。舵を外してと言われたが,特殊の工具がなければ外れない。結局半日かかって何も出来なかった。ボヘミアンお勧めの居酒屋『なるこ』へ電話して迎えに来てもらい,生ビールで鬱憤を晴らし美味しい魚を食べる。幸福寺のお守りを戴き,帰りも送っていただく。
8月7日 晴 今日は帰りの航程中最難関だ。距離の73Mはともかく今年の潮は例年と違い,潮がわからない。途中で避難するところも限られている。昨日の天気予報は波2mとあったので念のため2ポンにする。ところが出かけてからの天気予報では波2,5mとなっている。帰ろうかなと思ったが出かけてから既に2時間慎重に走ることにする。南の風は10mオーバーとなりリーフしたジブとで5~6kt『今日は舵を握りたくない』とオーパイに任せる。例年の潮の感じでは,1~3ktの連れ潮をもらえる予定が,黒潮牧場のTelサービスによると1~2ktの逆潮だ。そのお陰でうねりは高くない。13時間かかって土佐清水港着。一番奥の静かなところに舫い早速風呂,洗濯『魚田』で生ビール,土佐の鯖の刺身,何時もながら関鯖に負けず美味しい。魚のすり身の揚げ物がさつま揚げより美味しかった。帰ってドタン キュウ とお寝み
8月8日 晴 昨日の天気予報で波2,5mで,今日は三河丸船頭お勧めのヘルスセンターで1日過ごす予定が,朝の天気予報では1,5mどうしようかと思ったが慌てる旅でもないので,出ないことにする。ところがヘルスセンターは今日は休みだそうだ。がっかりしたら無料送迎バスがないだけで,営業しているとの話でバスで出かける。700円の入浴料でプールも利用でき,1日遊べるので値打ちだけれども,往復のバス代が1640円はちと高い。しかし1泊8000円足らずとあって家族連れで満員。夜『魚田』へ行き鯖を食べていると雨,窓があけてあったので,ずぶ濡れになって帰る。
8月9日 晴 風が強いようなのでどうしようかと思ったが,鯖も堪能したので出港,少し沖出ししたら連れ潮を1~2kt貰い南の風8~14m2ポンのメイン1枚で6~7,5ktで走る。オーパイが苦しそうだが,流石に手を出す気がしない。ローリングが激しく何もする気がしないので,キャビンで横になってるうち,2回も昼寝をする。 やはり快適スピードは5~6kt迄か。ヨット『リサ』が太平洋横断のセーリングに出かけて、小樽から函館までに幾つかオーパイを壊して,しっかり積み直して出かけたそうだが納得できる。室津港へ6時着,明るいうちに入れてよかった。近くの食堂で鰻を食べスタミナをつける。
8月10日 曇雨 昨日の天気予報では晴,南の風,波2mと出ていたので出港,ところがすぐ風は13m以上になり,海面まで覆っている黒か白い雲が来ると,風は15mオーバーに上がり,100mも先が見えない雨と,波ウネリは4mを越す。この雲が来ると,30分は続く。沖へ向けて舵を切り、前方をワッチして過ぎるのを待つこと3回、ホウホウの体で日和佐港に逃げ込む。海流図によると反流があるように書いてあったが,岸近くを走ったので反流の反流で連れ潮に乗って走る。港内でも2回も雲が来るが,涼しくなるので港内では歓迎だ。思えば硫黄島を出てから毎日南の風,8m以上が続いている。うねりも大きくなるわけだ。明日はどんな風が吹くやら。硫黄島を出てから燃料は20㍑しか使っていない。夕方四国霊場23番目の薬王寺を参拝し千羽温泉へ行く。硫黄の香りがする良い湯だった。(港から徒歩10分)
8月11日 雨後晴 何処の港でも出港する漁船の引き波に揺れて目を覚ますが,実に静かに出港するので目が覚めたら6時だった。慌てて出港,昨日のような雲が1回来た後は晴。相変わらずのクオーターの風をもらって走るが,伊島をクリァーしてからは、4m近い追い波がないで同じ6~7ktでも昨日迄と違って,ローリングしないので実に快適だ。やっとセーリングを楽しむ気分になるは,食欲も出てくるは現金なものだ。正午丁度徳島ケンチョピアにつき空いてるポンツンを指示されて繋留,終わって早速讃岐のうどんを食べに行くが,ここは祖母谷の蕎麦と,支那そば(ラーメンにあらず)が名物のようで,鉄火あんかけ蕎麦(マグロの刺身とトロロが掛かっている)を食べ、阿波踊り会館へ行き,阿波人形浄瑠璃を見て帰る。あまりの暑さに東急ホテルへ逃げ出す。
8月12日 晴 外を見ると暑そうなのでチェツクアウトぎりぎりまでいて、ヨットに帰るとシーガルネットの美馬さんが来て見えて,阿波クルージングクラブの理事長さんのヨットにお邪魔して色々お話を伺う。最近あまりヨットが訪れないとの話を聞き,遊ぶのには便利だが,やはり港の奥に入りすぎている所為かなとも思う。徳島名物の行列の並ぶ支那蕎麦をご馳走になり、クラブハウスにお邪魔する。借り物だそうだがクラブ員の手作りでピアノまである素晴らしさ,阿波踊り期間中は外来艇の為開放し,皆さんが寝泊り食事するそうだ。夜は阿波踊りを十分楽しんだ。もつと楽しみたかったが,南に台風が発生した様なので,明朝出ることにする。
8月13日 晴 朝5時出港長い水路を抜けてセイルをあげる。シーガルネットに徳島と,鹿児島の今井さんの声が入り,『flying』のことをたずねていたので『残念だが台風が心配で今朝徳島を出た。申し訳ない』と断りを言う。今日も連れ潮と風をもらい上り1杯で田辺へ向かう。途中雷に1度出迎えられ,雨も戴くが順調な走りで途中で周参見に行き先を変更,5時到着,早速イノブタ温泉へ行く。7時頃5ヶ所のヨットが入り阿波踊りを見に徳島へ行く途中と聞き、台風情報を知らせると明日帰るとのこと、折角の阿波踊り見物を邪魔したようで,知らせたが良かったか?と悩むことになるも、判断はスキッパーのすることと割り切る。
8月14日 晴 5時出港連れ潮を貰い潮岬を8時に回り、それから風なく逆潮、機走にて勝浦へ11時入港,怠惰な半日を送る。室田さんから度々台風情報を戴くので出所を尋ね,気象庁のHPを教えていただき早速アクセスし,だんだん大きくなる台風に驚く。この様子では16日にホームポートへ絶対帰らないと、又どこかの港で3~4日足止めを食うことになりそう,温泉に行き『プレイボーイ』なる居酒屋で1杯やって寝る。
8月15日 晴時々雷雨 今日も何時もと変わらぬ天気 風はなく逆潮,雷雨の洗礼を受けながら走る。第4管区保安庁ホーム頁よりダウンロードした潮流図は,黒潮が潮岬より離れ,回り込んだ黒潮の反流が熊野灘に流れ込んで西へ流れている。岸よりに走ってこの反流の少ないところを走るが,それでも0.7~0.5ktある。午後から後ろの風を受け,ジブだけ出して走る。チトなまかわになったかな?それでも6ktオ-バー気味に走る。4時半田曽浦につき,今日はお盆で行きつけのお好みやが出店を出すので休業と聞き、慌ててスーパーへ買い物に行くも殆んど売り切れ状態で,悲惨な夕食であった。
8月16日 曇 今日はホームポートまで帰る日だ。大王埼を回るとやはり台風を逃げてかヨットが多い。伊良湖水道を回ってからやっと風が来て快走,防潮提を入るとボヘミアンとタートルが寄って帰りを出迎えてくださる。ポンツンに着け方を忘れてはいないかな!とお手伝いくださった方が海へ落ちるハブニングがあったが,無事着艇,約3ヶ月の航海を終わる。今日はヨットに泊って掃除をして、明日帰ることにしシャワーを浴びて、魚河岸鮨に行き食事をする。
8月17日 晴 朝から暑い。名古屋は連日熱帯夜だと言われる通りだ。やはり海の上は多少涼しいかな?片付けをすると何時何故こうも積んだかと思うほど色々な物が出てくる。吃水線が5cmも上がり、乗用車に荷物が収まりきらなかった。夕刻お仲間が一緒に食事をしようと誘っていただくも,草臥れきっていたので辞退し、久しぶりに我家に帰る。

 

お迎えをうけたflying   後ろのやぐらに自転車を吊り下げ、フエンダー代わりの俵を大、中1個ぶら下げています。小は脱走しました。赤く見えるのは日除けを巻いてあります。

熟年シングルハダーの航海を振り返って
自転車
買出しに、遊びに必需品です。自転車をぶら下げてないflyingは考えれません。
オートパイロット

ボヘミアンみたいな若さとファイトあるシングルハンダーを除いて、オートパイロットは壊れるものとして、2台以上セットしておくのが望ましいですね。私の場合は2台セット済みですが、航海の最後頃にはヘタッテきて取替えようと思ったが、ホイールをはずす工具が無かったので、だましだまし使ってきました。必要な工具は忘れずに持っていきましょう。ボヘミアンの渡辺船頭の話ではウインドベンは世界周航中1度も壊れなかったそうです。
レーダー
年金生活者でお金が無いので節約していましたが、どうにも眠いときにはレーダーをワッチモードにして仮眠を取りたい。前つけていたときに、期待に反して、あまり役に立たないと思ったが、相手のレーダーを感知してアラームを鳴らすワッチマンが$490ぐらいするが、フルノのレーダーが$1170で買えるので、今度行くときは設置したい。(何故日本製品をアメリカで買うと、日本の半分以下で買えるのか?誰か教えて下さい)
航程
やはりユトリを持って航海するには、デイラン25~35Mにして早出、早着きをして、着いたところの情報を収集して遊びたい。最近港にヘルスセンター(温泉つき)のような所が出来て、安いところは\300で温泉に入って1日楽しめますし、食事をして、TVも見て、涼んで8時頃帰れば最高。
スピード
クルージングを楽しむには、6kt以内が良い。世界周航艇はどれもセイルエリアを小さくして、のんびり、ゆったりのムードの様ですね。私は上りの風のときは(微風の機帆走を除いて)航程が倍近くになるので出航しません。(年金生活だから出来るんでしょう)艇速が出て舵を握って走るのも楽しいですが、ジジイは草臥れて港へ入ってから、どこも行く気がしないようになります。
GPS

カラーモ-ドのプロッターつきのGPS、魚探を設置しているが、非常に便利です。前の白黒モードに比べると識別が断然楽です。チャートワークの手間が省けるが、チャートと照らし合わせて使わないと駄目だということを、海面の孤立岩にぶつかりかけて痛感。1枚\35,000のカードも惜しむべきでないでしょう。尚クラブの忘年会の抽選で当ったポケナビは非常に優れもので、これだけで充分役に立つものでした。
冷蔵庫
バッテリーが上がる心配があるが、氷を買いに走る苦労から解放されるので、電気冷蔵庫かガス冷蔵庫が夏のクルージングの必需品です。(ボヘミアンはガス冷蔵庫の愛用者です。運転音が無く、バッテリーも上がらないし、氷を買うお金でカセットボンベが買えるんじゃないかな)漁港では氷を売っていますが、とてもヨットの冷蔵庫やクーラーに入りきらない単位ですが、安いです。昨年バッテリーが上がる失敗をしたので、今年はバッテリーセパレーターと、ローボルテージセキュリティーをつけ、心配をなくしました。メインバッテリーは使はず、サブバッテリのみを電装品に使い、11,5v以下になるとバッテリー保護の為に接続になります。その時点でエンジンをかけて充電します。冷蔵庫、その他を使い1,5日位はOKです。(夏でエンジンをかけてない時)考えてみるとサブバッテリーにローボルテージセキュリティーをつけ、メインバッテリーをエンジンスタートのとき以外はSW off にすれば良かつたかも?ソーラーでは電気冷蔵庫やTVの消費電力を補えないし、1時間エンジンを回せば充電するし、1時間1㍑しか軽油が要らないので、ソーラーを買うお金と氷を買うお金で、どれだけ軽油が使えるかな!
TV
TVは昨年見すぎてバッテリー上がりの1因になったので、液晶TVに変えました。港によっては地上波のTVが見えないので、衛星TVのチューナーも積んでいます。アンテナは岸壁の上に置きます。のんびりするときはTVが見えると楽しいですし、天気図も見たいし、航行中の暇つぶしにもなります。陸地が見える時は地上波のTVが見えます。
パソコン
初めてノートパソコンを持ち込んだが、こんな便利なものは無い。航海記を書けるは、メイルを送れるは、天気予報(台風情報も)は取れるし、保安庁のホームページにアクセスして、潮汐、潮流情報をもらえるはで、精神安定上非常に有効でした。但しNTTの携帯電話しか僻地や離島は使えないので御注意を。GPS対応の電子海図があるそうで、検討しようかな!
台風

今年は台風の当り年でした。同じ台風でも南の方は、この辺の2倍くらいの勢力があると考えても良いでしょう。漁船は台風接近の3~4日前から避難します。早く避難しないと良い場所が無くなるし、うねりが大きくなって航海することが非常に困難になるからです。台風が近づくと対岸の堤防或は陸地から舫を取って準備し、なるべく他所へ行くよう祈っていますので、遅くなると港に入ることも出来ません。舫ロープは最低100M用意したほうが良いでしょう。命が大切ですので、私は民宿か旅館に避難します。1昨年指宿で漁船が4艇も沈没しました。台風が去ってからもうねりが残って、1~2日は出られないと考えてよいでしょう。なんと言っても太平洋、玄界灘です。然しうねりが好きな方は是非トライしてください。サーファーは喜んでトライしています。
コミニケーション
漁師さんはヨットは沈まないもの、高いものとの印象を持っている人が多いです。然し台風の中のクルージングは、漁船もヨットも楽しいものではないと答えています。又大方の漁船は小さいものでもウン千万します。私はチャンスがあれば船内を見てもらって、ジュースの1本でも召し上がっていただいて、年金生活者でも買えるんです、宿賃がいらないから安く上がるんです、等と話しています。コミニケーションによって台風情報も(漁協は台風情報の特別なルートがあるみたい)遊ぶところも、美味しい食堂、次の寄港地の情報も教えてもらえます。
係留
最近魚が取れないので都会地近くの漁港以外は漁船も少なくなり、(都会近くの漁港は遊漁船が多い)大抵の漁港は横付けで係留が出来ます。故野本先生に怒られそうですが腰も悪いこともあり、アンカーはなるべく使わないことをモットーにしています。まず漁港に入ったら漁船に乗っている漁師さんに係留の許可と場所を聞きます。「今晩泊めさせてください。どこがよいですか?」殆どの漁師さんは直ぐ係留場所を指示してくれます。誰もいない時は仮係留して漁協へ行きます。簡易港湾案内を見て漁協に電話するのも良いでしょう。今航海中トカラ列島の中ノ島以外はすべて岸壁横付けでした。潮の干満の差の大きいところは、岸壁に上るのに梯子は必需品です。岸壁を眺めながらヨットで淋しく食事をすることになります。離島にはお店も無いような所もあり、平均して物価が高いので(ガソリンが180円の所や売ってない所もあります)十分用意をしてください。岸壁に大きいゴムのフエンダーが付いている所があります。あたるとゴツンゴツンと音がしてハルが黒くなるので、発泡スチロールの大きい俵も必需品です。そのままだとキ-キー音がして喧しいので、ロープを巻くか、帆布を被せます。アンカーは台風時を想定して2個は欲しいです。屋久島より南はサンゴ礁が多いので、地元船具店で売っている爪が伸びるアンカーを買いましょう。

flyingは160㍑の水タンクがあります。洗い物は海水を使い、濯ぎだけ清水を使います。風呂に入れないときは温水が出るので、シャワーを使っても3週間は持ちます。港で水を入れる時にホースが無いことがありますので、ホースを積んでいますが、今航海では使いませんでした。水を入れれるところでは必ず補給をし、予備に10㍑のポリタンを積んでいます。

最後に拙い航海記を呼んでいただいた皆様に感謝すると共に、永らくこんなヨット遊びをさせてくれた愛妻に感謝します。