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FLYING航海記4

船頭 水野範彦

6月18日 雨のち曇りの予報が朝から晴 天気予報では強風波浪注意報が出ている。昨日土砂降りで何もできなかったから、燃料,水補給,その他の雑用をする。1時半ころ声がかかったので外へ出ると,牛深で会ったHOPEの若林御夫妻が見えた。2時半のシャトルバスに乗って,山川温泉センターにご一緒する。6月19日 予報どおり雨,前線に伴う低気圧が近づいているみたい。風も強く20m近く迄上がり,夜半巻き網漁船も逃げ込んできた。
6月20日 雨 低気圧が居座っているようで,漁船も出港しない。海上風,波浪,注意報が出ている。慌てることないので,今日も山川港滞在。鰹の1本釣り漁船はこんな天気でも頑張っている。やる事が無くなったので,魚を貰ったけれど包丁切れなかったので,研ぎと,読書,TV。
6月21日 雨 前線が近くにいるので,昨日と同じ注意報が出ている。梅雨真っ盛り。HOPEは朝6時頃出港したみたい。こんな天気では,楽しくないだろうに。温泉センターに行くのが日課となっている。
6月22日 晴 衛星TVのチューナーを修理に出したので,戻ってきたのを早速テストするが,まだ悪いが今日は土曜日で連絡できない。これからおそらくTVの見えないところばかりだろうから,残念だが仕方ない。漁船に『まだいるか』と笑われて『居心地が良いので尻が座ってしまった』と言うたが,,明日は出ることにする。
6月23日 晴 アビームの風をもらい,6~7ktで走る。竹島に行くつもりで出かけたが10時に着きそうなので、急遽予定変更して口ノ永良部島へ行くことにする。連絡船岸壁の半分のところにテトラが入っていて,その内側は地元漁船が占拠しているので,丁度フエリ-が出た後につける。ここもTVが映らない。ラジオの予報が,明日は前線が上がってきて,強風,雷,波浪,大雨注意報が出る。明日は滞在と決めるが、フエリーが入ってきたとき,どこへ移動しようかと心配だ。
6月24日 雨 予報どおり風が強い。地元漁船の間に泊めさせてもらう事にし,アンカーロープも遊んでいるのを使わせてもらう。隣の漁船の長福丸の渡辺さんが見えて,『それでは陸に上がれないから,俺の船に抱けば良い』といってくださる。テトラが,風,波を消してヨットはふんわり揺ったり,有難いことだ。前線が居座ると,『flying』も居座ることになるので,今日は民宿[のぶ子]にご厄介になる。立派なイセエビがついてきた。夜TVの天気図で納得、低気圧が居座っている。
6月25日 雨後曇 波浪警報が出ている。午前中のんびりし,午後民宿の車を借り,島を駆け巡る。この島には温泉が3ヶ所あり、湯向温泉は3年前に、湯向港に入って,入ったことがあるので,パスして西の湯温泉に行く。屋根と浴槽があるだけの食塩泉で波の音を聞きながらの素晴らしい環境だ。近くの小さい港では、小中学生合わせて9人の海水浴の課業だをしていた。高校は鹿児島か屋久島で、寄宿舎か知人宅で世話をしてもらって、通うんだそうだ。お金がかかるんだろう?次に寝待温泉に行く。白濁した硫黄泉で立派な水洗式の公衆トイレも付属している。温泉も,眺めも素晴らしい。遥かに硫黄島,竹島を見え,その先はシナ海だ。しかし北西に面しているので,冬は波が凄いだろうな!湯治の人の為に町営の貸し家も6軒ある。現在は満員だそうだ。島にdocomoの無線塔や,マイクロウエーブの中継塔が3ヶ所もある。『携帯電話はdocomoに限る』と漁師さんの言うのが良くわかる。インターネットの接続も携帯電話でするので、どこでもOKだ。道路の両側に1m位の柵がしてあったので,何かと思っていたら,放牧した黒牛が道路に出てこないようにしてある。最近尻が中々上がらない。広島大学の学生さんが家を1軒借りて魚の生態の観測をしてるのに出会ったら、魚,野菜は自給しているので生活費は安いが,ガソリン1㍑170円には参ったと悲鳴をあげていた。今日も民宿泊まり。
6月26日 曇 天気予報によると,低気圧は東海沖だ。朝食後出発。今日も良い風をもらって,1ポンのメインとジブで6ktで走る。途中黒い雲が来たので,ジブをしまう。30分くらい強い風が吹く。正解だった。雲が去ってから又ジブを出す。GPSを見るとまっすぐ島に向かっているはずが,島の反対を指している。30度振って漸く本来のコースになる。つまり強い西流があるのだ。着いてから計算したら,西流が約2、5kt,反流が約0,5ktだった。口之島に近づくと波が騒いでいる。大きく回って,昼に口之島につく。良い港だ。吐喝喇列島では,宝島,悪石島と並ぶ良い港ではないか?港湾案内を見て,『吐喝喇列島では,黒潮本流は各島の西側に突き当たって南北に分かれ,,島の南,北端で急潮を起こし,さらに島の南東側付近で分流が会合して南端付近で激潮を起こす。もし風向が流向と反対ならば波が一層高まって小船の航行は危険となる。この現象を俗に[しおまくら]と呼ぶ』とあった。これに当ったわけだ。目の前の民宿に人がいないので今日はシャワーを浴びて船中泊。
6月27日 晴 朝,風が強いので見合わせていたが,少し収まったようなので8時半出港。帰ってきた漁船に手を振ったら,50cmのシビの差し入れを戴く。今晩のおかずをゲット。ケンケンを流すのを中止して、隣の『中の島』まで10Mしかないので,アビームの風をもらって,のんびり行くつもりだったが大違い。約2ktの反流を貰って,5,5ktで走って3時間半かかった。まあいいか!帰りはこの潮をもらえるわけだ。しかし次の予定の悪石島まで25Mあるので、この調子で計算すると,8時間以上かかることになる。明後日から3日くらい天気が悪い予報と,何か億劫になって南下はここまでとする。年をとりたくないものだ。昔なら絶対挑戦したが!諏訪瀬島、臥蛇島から煙が上がっている。10年前に来た時は地元の漁船は5杯くらいしかいなかったが,ほとんど満杯で,今航海で始めてアンカーを入れる。頂戴した魚を料理してから,温泉に行く。3ヶ所あって、明礬泉,硫黄泉,食塩泉何れも無料,温泉のハシゴをする。4時頃声がするので出てみると,前から鹿児島でお世話になっている,錦江湾ヨットクラブ会長の『ぼっけもん』(鹿児島弁で冒険者)ヤマハ29の森さん夫妻が入って見えた。3月にでて,与那国島など,沖縄を回って鹿児島へ帰る途中だそうだ。またまた羨ましいご夫婦だ。再会を祝し,地元の漁師さんご夫妻と,森さんが釣り上げられた,体長70cmのシビずくしのご馳走になる。(チョツと可笑しいな?)この前来た時にトカラ馬牧場など見物したので、明日は口之島へ戻って,今朝 魚を貰った船頭さんの民宿で,悪天候を過ごそうか?
6月28日 曇雨 今朝の天気予報を見ると午後より雨とでたので,すぐ出港。昨日の行程を1時間40分で口之島着,9時頃より雨が降り出す。明日は大雨のようで,民宿泊まりとする。朝飯がお粗末だったので,早昼を食べて昼寝をしていたら声がかかって、地元の漁師さんが,明日は天気が悪いし,台風が南に出来かかっているから,早く北上したほうが良いとのお話,TVの天気予報ではまだ何も言ってない。明後日は天気も少し回復する様子で、予定通り滞在することに決める。吐喝喇列島の島々は、全人口約800人で、十島村となっていて、公共工事が主な産業のようだ?口ノ永良部島より南の島は全部有線TVだから、復調した衛星TVが頼りだ。トカラ黒潮丸の民宿に泊まる。新築に素晴らしい民宿で、シャワートイレまで完備しているのに吃驚、地元の食材を使った野菜、魚、肉の料理で美味しかったが、ついに食べ残した。戦中派の私にしては慙愧のきわみ。近くの公民館にある温泉に行く。火山列島だけあって、何処を掘っても温泉が沸くのだ!と実感。
6月29日 雨 予定どうり滞在、土砂降りの雨が強く降る。こんな素晴らしい民宿だと、尻が動かなくなる。トカラ黒潮丸は貸切で1人でも5人でも生きたムロアジの餌つきで8万円でクエ、キハダマグロ、カンパチなどが釣り放題。余程大きいクーラーを持ってこないと困るだろうな。しかし船頭さんが体を壊して、積極的に宣伝してないので、穴場だろうな。
6月30日 雨曇 昨夜天気予報にチラッと台風5号、6号が映っていて、夜中目を覚まして心配になり、インターネットで台風情報を見る。5号は台湾から中国へ、6号も大体同じコースを取りそうで、安心して休む。予定通り今日もう一日滞在することにして、港へ行くと釣舩が入ってきて、50kgの浪人鯵、1,8m位のバショウカジキ、平鯵、マグロなど大型クーラー2杯の魚を下ろしている。これで普通とのこと、ヨットをおいて改めて魚釣りに来たいと思った。やはり穴場だ。中の島の見えるセランマ温泉と、野牛の生息地、トカラ山羊の生息地へ行きたかったが、連日の雨で、道路の状態が悪いとのことで諦める。
7月1日 曇 5時に親父さんに送ってもらって出港。メインセールを上げてケンケンを入れるとすぐツバスがかかる。これで漁師は止めて、アビームの風を受けて5~6kt、対地は6~8ktで走る。天気が次第に晴れてきたので、気持ちも晴れて、ケンケンをいれるが、スピードが速すぎて何も釣れない。一湊に近づくと風が落ちて、ついでに1,5mくらいのシイラが2匹釣れるが海へ返し、仕舞おうかな?と思っていたら5kgもある鰹が2匹もヒット、6時間で45M走る。魚を料理していたら、スキューバダイビングのインストラクターが、宮之浦に立派なポンツンがあるから行ったらとのアドバイスで、急遽宮之浦へ、内港の中に10mくらいの立派なポンツンがある。波は入らないし、フエリーの乗り場や、ショッピングセンター、食堂も近く便利だ。今日は大漁だったので、刺身、焼き魚など魚つくしの料理で夕食。
7月2日 晴 昨日は、種子ヶ島の島間港に行って、宇宙センターをもう一度見たいと思っていたが、天気予報を見て、台風がこちらへ進路を変えたようなので、山川へ行くことにして出港。ケンケンを流すと連続で1,7m位のシイラがヒットしたのが海へ返してケンケンをしまう。アビームの良い風をもらい、対水で『flying』最高の8,3ktがでた。しかし8ktオーバーのセイリングで3時間も舵を持ってるのは、疲れるものだ。山川へ入港し暫くは何もする気がしなかった。4時頃タグボートに引かれて大きな作業船が入ってきた。枕崎で作業をしていたが、台風が近づいてきたので、早くここにつけないと場所が無くなるとのこと、外港にいる本船も来るらしい。すっぽり囲まれてしまった。KMSに避難することにして連絡するも留守電で、返事がない。どうしようかな?